留学準備


フランスへの語学留学に関しては、1に示すようなガイドブックが多数ある。ここでは大学の正規課程に登録する手続きに関して、体験から得た有益と思われる情報を、簡略に紹介する。

1 留学に関する一般的情報の収集

 『成功する留学F フランス留学』(ダイヤモンド社)毎年改定

『地球の暮らし方2 フランス』(ダイヤモンド社)毎年改定

ICS国際文化教育センター編『フランス暮らし入門』(大修館書店、1998年)

その他『フランス留学案内』(フランス語教育振興協会)もあるが、重くて高いわりに 1991年以降改定されておらず、情報が古くてあまり役に立たなかった。図書館で目を通し、必要な箇所をコピーするだけで十分だろう。


2 第二、第三課程への留学手続き

※第一課程と、第二・第三課程とは、入学手続きが異なる。第二・第三課程への入学は、基本的に日本で該当する資格を持っていること、指導教官の承諾、の二点が最も重要のようである。ただしこの過程で面接がある。また、パリ大学ではフランス語の試験を課すので、確認が必要である。

※第一課程への入学には、フランス語の共通試験が課される。これは3月と8月に二回行われるという話しであるが、詳しくは確認が必要である。経験者の話しでは、日本人の場合最低1年程度の準備が必要とのこと。

(1)大学と指導教官の選択

自分の知る限り、フランスに関しては、決定的な情報収集の手段がない。専門分野に関していい論文や本を書いている人に直接当たるか、口コミ、紹介に頼るしかないだろう。インターネットでも一部の大学については、どのような専門分野の教授がいるかを知ることができるが、具体的な研究内容までは分からない。図書館の研究者目録も同様。

このような状況においては、留学に関する専門情報は、一部の人間関係の中に集中的に蓄積されている。口コミや紹介を通じて、そうした人脈の中に入り込んで行くことが重要である。前もって現在留学中の人を数人紹介してもらった上で、実際にフランスに視察に行き、現地でさらに経験者を紹介してもらうことが、密度の濃い最新の情報を得られる、最も有効な手段であると思われる。なお留学経験者は、みな留学情報の収集に苦労した経験を持っているため、「こちらもこれだけ苦労した」という〈経験の共有〉を提示しなければ、なかなか有効な情報を聞き出せないことが多い。

(2)手紙

次のものを用意して送った。私の場合時期が遅かったが、経験者の話では留学する1年前から9ヶ月前くらいまでに第一コンタクトを取るのが適当という。

・留学の希望内容と期間、理由、経済的手段を記した手紙
・これまでの研究内容と留学中の研究計画(できる限り詳しく)
・フランスに関係の深い教授と学部長の推薦状
・学歴書

(3)事務手続き

第一コンタクトの返事において、他の教授の紹介(実質的な拒否に近い)やフランス語能力の確認等、様々な選別がなされることになる。スムーズに受け入れの返事がくれば、次に学生用のパンフレットの記述に従って(パンフレットの入手法等は、1の本を参照)、しかるべき時期までに手続きをすることになる。EHESSのDEAへの入学の場合には、次のような順序を取る。(手続き内容や時期は各大学、各学部によって異なる。例えば、パリ第一大学第三課程政治学講座は5月末までで締め切られるが、同大学同課程歴史学講座は10月まで願書を受け付けているなど、全くバラバラであり、早めの確認が不可欠である。)

・6月もしくは9月に入学願書を入手する。7-8月は夏期休暇で事務も閉鎖するところがほとんど。
・10月初旬までに教育課程への登録を完了する。

提出書類:入学願書、出生証明書の法定翻訳、ディプロムの法定翻訳(Licenceが要求された)、A4で10ページ程度の研究計画書

・正式な入学許可は、研究計画の審査、および指導教官との面接ののち、研究所の教官から成る審議会において決定される。ただし面接が実質的な審査となる場面は、そう多くなさそうである。

・入学許可の後、行政書類を渡され、11月半ばまでに行政的登録を行うことで、手続きが完了する。


3 生活準備

あらゆる生活準備の中で、特に重要なのが滞在許可証の取得と住居の選択だろう。滞在許可証に関しては、情報も少なくないし、条件が整っていれば、時間と忍耐が必要なだけですむ。むしろ右も左も分からない状況の中で、ホテルに泊まりながら、自分の足で探さなければならない住居選択の方が、はるかに厳しい作業である。

(1)住居の選択(パリの場合)

Cite Universitaireに入るのが一番楽だろう。住居だけでなく、食事・電気・電話・水道・ガス・住宅保険・大家との交渉・暖房といった煩雑な手続きを、全て簡略にすませることができる。逆に言えば、外国に暮らすということに本来伴うべき生活上の苦労を、ほとんど味わわずに済むことができる。交通の便も良く、パリの一般的な住居環境に比べて、周りの環境は格段に良い。一ヶ月の家賃は、学生ならば1800FFから2400FF程度。日本人は全て日本館に申し込みを行い(※)、希望によっては外国館に居住することも可能(※※)。申し込みは一応5月末で閉め切られるが、部屋の空きによってはその後も入居が可能という館長の話しなので、期限が過ぎても申し込みを行う余地はある。

※※ただし初年度は日本館に入れられることが多い。

なおCiteに住む利点は、生活上の便利さだけでなく、すぐに留学生同士知り合いになれるという点もある。情報交換や精神上の衛生という点からして、初年度はここに暮らすのが望ましいのではないかと思う。ただし何年もここに住み続け、その便利さに慣れてしまえば、逆に「パリから」孤立する、という危険を招くのではないか。住宅の選択は極めて重要であり、この点は意見の分かれるところでもある。数多くの経験者の話しを聞いた上で判断する必要がある。

・ステュディオを自分で探す場合。情報収集の仕方は、2『地球の暮らし方』に詳しい。知人の口コミの他、De particulier a particulier, OVNI, Jeudi Paris Tokyo, CROUSのはり紙、アメリカン・チャーチ、ジュンク堂のはり紙、不動産屋など。

・部屋選びのコツは、とにかく「早く情報を得ること・早くコンタクトを取ること・数多く部屋を見ること」、に尽きる。パリの部屋は競争率が非常に高く、いい部屋はすぐに決まってしまうからである。OVNIは月末と月中旬発行、 Jeudi Paris TokyoとDe particulier a particulierは木曜発行ということを頭に入れ、発行日の朝一番に手に入れること。そしてすぐにコンタクトを取ること。はり紙は頻繁にチェックすること。逆に人より遅く情報を手に入れ・数軒見てまわっただけで疲れて決めてしまったりすると、いい部屋を手に入れられる可能性はきわめて低い。

・値段/場所/広さの全てが自分の希望に合う部屋を見つけることはかなり難しい。自分の経験では、パリ市内で3000FF以下の部屋は、屋根裏の/狭く/暗く/水事情の悪い部屋、つまり人間らしい生活ができそうにない部屋がほとんどだった。どの要素を妥協して、どの要素にこだわるかは、部屋を数多く見ていかなければ分かってこない。選択の方向が決まってくれば、これまで候補に入っていなかった部屋を視野に入れて探すこともできる。

・自分の経験に基づく印象では、パリ中心部まで1時間近くかかる郊外(banlieue)に住むことは、勧められない。治安上の問題だけでなく、パリでは研究・生活のために立ち寄るべき地点が分散してあり、交通に多くの時間と労力を取られることになる。またバス、メトロとも、郊外に向けてのラッシュが存在することを考慮する必要がある。

(2)滞在許可証の取得

あまり知られていない情報だけを列挙する。

・パリに住む場合は、在仏日本人会(97, avenue des Champs-Elysees, Paris 8e. tel: 01 47 23 33 58)が滞在許可証の取得に関するあらゆる相談に応じてくれ、便利である。

・在日仏大使館において学生ビザが発行される際、「フランスに入国後、8日以内に、警視庁にて、滞在許可証の申請を行ってください。」と書かれた紙が添付される。ところがフランスではすでに法律が変わっていて、「入国後8日以内」ではなく「2ヶ月以内」に申請すればよいことになっている(在仏日本人会担当者談)。

・学生ビザの場合、滞在許可証を取得しないまま一度フランスを出国してしまえば、ビザの効力は失われる。すなわちビザ取得後一度目の入国で、必ず申請をしなければならない。

(注) 以上の情報は、あくまで個人的な体験をもとに、参考情報として記したもので、その後の変化を逐一追っているわけではありません。情報の確認は、各自の責任においてお願いいたします。